曇りなき眼で見定めブログ

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【感想】『チェンソーマン』というアニメを見たぞ!

 なかなかおもしろかった!

cut-elimination.hatenablog.com

 ↑で漫画の『チェンソーマン』の感想を書かなきゃとか述べたが、アニメを見たついでに漫画の感想も書いておくよ。

 物凄く大々的に広告を打ったりして、世間が一丸となってチェンソーマンを流行らせようとするような機運があり、どうなるもんかと見届ける為にけっこう色んな記事を読んだ。トゥイッターや掲示板で感想を漁ったりもした。そういう事はあまりしない私だが、今回はそれを踏まえた感想になっている。ただし、私は強靭な精神を持っているので、他人の意見に自分の感性を捻じ曲げられたりはしていない。

原作漫画の感想!

 けっこう面白い。ちょっと前の『鬼滅の刃』ブームの時に流れでチェンソーマンも読んだのであるが(キメ・ヤイのかんそうはこちら)、キメ・ヤイより面白い。

 しかし、こんなに熱狂的に支持される程とは思わない。まあジャンプだからしょうがないが、極端に逸脱したものは感じない。むしろ良い意味でも悪い意味でも「よく出来た」漫画という感じである。少年漫画を卒業しつつあって、流行り物だけでなく自分で情報を収集して映画やら音楽やらを鑑賞し始めた若者とかに人気があるのではなかろうか。どうもネットを見ているとそんな感じがする。

 世間では「イカれた」「狂った」「ぶっ飛んだ」漫画みたいに言われているようなのだが、私は全くそうは思わない。なんらな品すら感じる。デンジは常識は備わっていないかもしれないが狂っているようには見えない。思考は普通ではないが一貫はしている。パワーも。良識の範囲内でキテレツな言動・行動をしている感じ。岸辺が「頭のネジがぶっ飛んでる(のが良い)」とか言うが、本当に狂っている漫画は作中でそんな事を言わないか、言ったとしてもその「ぶっ飛んでる」の感覚がおかしいかである。チェンソーマンを狂った漫画だと思っている人は、ぜひ猿渡哲也先生(猿先生)の「タフ」シリーズ、特に『TOUGH 龍を継ぐ男』を読んでもらいたい。本当に狂った漫画は作者も狂っているという自覚がない。

 最近の漫画は本当に心の声とか不要なナレーションとか説明的セリフが多い。チェンソーマンにはそういうのが殆どない。コマ割が上手いんだろうか。二種類のコマをちょっとだけ絵を変えて連続させて映画のカットバック(?で合ってるのか?)のような効果を出したりとか、無言の顔だけのコマを置いて白けた空気を演出したりとか。こういうのを私は「品がある」と思っている。品がない漫画というのは『ワンピース』みたいなやつで*1、ああいう読者に伝わらないのを恐れてどんどん表現が肥大していく感じがない。上手な映画みたいである。なお、「タツキ先生は映画好きで〜」とかファンはよく言うが、漫画家なら映画を見て研究するのなんて当り前だと思うので、なんでわざわざそう言うのかが分らない。手塚治虫とか大友克洋とかに対して「映画好き」なんて言わんでしょう。それくらい最近の漫画家が不勉強になったのか。

 品があると言ったら、屁理屈みたいな能力バトルがないのも良い。

 また、絵画的というか前衛的な表現も面白い。闇の悪魔の表現とか。こういうのを「考察」するのは無粋な感じもする。というか考察は良いが、答えを出した気になってはいかん。分らないから面白い表現というのもある。また前衛だけでなく、全体的にレイアウトが正当に美しい。戦闘シーンは言わずもがな、マキマが椅子に座ってデンジに銃の悪魔の事を話すコマなんかも非常に良くキマっている。他にも銃の悪魔の殺戮を文字で表したりとか、漫画ならではのアイデアが凝らされていて、後述のようにアニメ化を難しくしている。

 タツキ先生の漫画を初めて読んだのは「妹の姉」という短編だったのだが、その時から一貫して女キャラが上手いという印象を持っている。マキマのような怪しげな女とか、姫野のような猿先生の漫画だったら「メスブタ」呼ばわりされそうな女とか、癖のある女キャラが魅力的である。私はそういうのがけっこう好きである。

 あとジャンプ漫画の限界なのかもしれないが、デンジがけっこうこぎれいなのが気になる。私はデンジは教養がないだけで普通に好青年と感じる。この辺もファンと意見が分れるところ。

 ちなみにタツキ先生の『ルックバック』という読切も読んだ。これもとても面白かったのだが、京都アニメーション放火事件の日の翌日の日付に公開され、内容もそれを匂わすもので、「俺が死者の遺志を継いでやるぜ」というナルシシズムが不愉快だった。私はタツキ先生よりも京アニの方が何倍も好きで思い入れがあるので、タツキ先生のその心意気を素直に称賛出来なかった。

漫画のアニメ化なんてするな

 漫画をアニメ化するという手法は『鉄腕アトム』の頃からの王道だが、私は無理にしなくても良いと思う。アニメ化するのが人気作の常識みたいになっているが当然漫画はアニメとは違う訳で、いろいろと問題も出てくる。なんかどちらも絵を描いて作るからって同じようなものだと思っていないか世の中は。たまたま手塚治虫が漫画とアニメ両方に意欲があっただけという要因も大きいと思うのだが。以下では漫画のアニメ化の問題点を述べる。

 最近の漫画原作のアニメ(に特有の傾向だと思うが)というのはどうしてこう漫画のコマそのままみたいなレイアウトを描くのか。『鬼滅の刃 無限列車編』を観た時に愕然として、それ以来すぅごく気になっている。当り前だが漫画はアニメではない。漫画のコマとは比率も色も違うので印象がまるで変る。そして映像の流れの中で静止した漫画の絵が嵌め込まれると違和感がある。

 セリフによるギャグがあった場合、これもアニメで再現するのは困難になる。恐らく文字を黙読するのは、声優が発音するより、少なくとも現象学的な時間(主観的な、体感的な時間)は短いからではないかと思う。黙読用に作ったセリフが読まれて耳に入ると微妙に遅く感じられるのである。その結果、ギャグにとって最も重要な間合いとかキレといったものが削がれる感じがする。

 それとコマ割について。漫画は映画的な演出が良しとされる訳だが、当然ながら漫画は映像ではなく止った絵を並べたものである。まあアニメーションだって突き詰めれば止った絵の連続な訳だが、連続具合が違う。いしかわじゅん先生が本で挙げていた(有名な?)例で、大友克洋センセの漫画『AKIRA』で教師が生徒を殴るシーンというのがある。教師が腕を振り上げたコマの次に、殴られて吹っ飛んだ生徒の顔のコマが続く。つまりヒットの瞬間の絵はないのである。映像的な漫画演出である。しかし映像ではこれを普通に連続的に描くことが出来る(大友自ら監督したアニメ映画版『AKIRA』では、レイアウトは全然違うがそうなっていた)。すると漫画は映像を頑張って再現しようとしているだけの映像の下位互換メディアと思われるかもしれないが、そうではない。この「コマとコマの間を想像で補う」ことこそが漫画の面白さなのだ、と言いたい。そこに快感がある。これについてはもうちょっと美学を勉強したらその内ちゃんと議論したいが、鑑賞者が知性とか想像力を働かせるように促すのは、優れた作品の条件の一つである。漫画のアニメ化は注意深くやらないとこうした興を削ぐこととなる。

チェンソーマンアニメの感想!

漫画のアニメ化問題は本作ではどうだったか

 前述の漫画のアニメ化にまつわる問題は本作ではどうだったか。

 まず原作のコマをそのまま再現問題について。第1話の、マキマが登場してゾンビの死骸を顎で示して「これ、キミがやったの?」という所が、漫画そのもので寒気がした。原作では顎で示したその瞬間のコマでいきなりマキマの顔が初登場する。アニメでは顎を振る動作が入っているのだが、首を傾けたその姿勢はけっこう不自然なもので、なんでわざわざそんな辛そうな体勢で止まるのか分らない。漫画ではその姿勢の瞬間がカッコ良いのでそこを切り抜いたというニュアンスがあり不自然でない。

 そのまま再現は戦闘シーンで顕著である。後述のように戦闘シーンの作画は非常に良いのだが、やはり原作の戦闘コマのレイアウトが印象的だからかそれを入れることがノルマになっているようで、不自然な再現絵が多かった。原作の大ファンは色付きで原作のコマが見られて喜ぶのかもしれないが、アニメはアニメとして見たい私は不満である。コンテマンやアニメーターは再現ノルマがのしかかって辛いとかないのだろうか。

 ギャグセリフが不自然になるというのも残念ながらそうなっていた。そのせいかギャグの痛快な感じがなかった。あの飲み会のIQのくだりとか。あそこはセリフとそれに面食らった顔が同じコマに収まるからキレが出ていたんでないか。映像化すると微妙だった。

 コマ割の件だが、これも詳しくは後述だが、チェンソーマンアニメに関しては中山竜監督の作風のせいなのか妙にゆったりした動作が多い。コマとコマの間を想像で埋める快感が無くなるどころが、アニメは間を過剰とも言える中割りで埋めてくるので、もうええわとなることが多かった。これはかなり不味い感じがした。

作画はなかなか良い

 とはいえ作画(CG含め)はかなり質が高い。

 全体的に絵にかなりの手間がかかっている印象である。まあそんな事するくらいならキャラクターデザインをシンプルにしろよと思うのだが、原作があるからしょうがない。これも漫画のアニメ化の難しいところである。

 中山竜監督はアクションを得意とするアニメーターであり、アクション作画監督吉原達矢氏も実力者である。という訳でアクションはかなり良い。なのだが、『万聖街』のアクションを見てしまうとどうしても見劣りしてしまった。作風が違うので比較は難しいかもしれないが、私の好みは断然『万聖街』である。チェンソーマンはリアルを徹底している。しかしそのために想像を超えた絵にはなっていない。「異形のキャラクターが実際にいたらこんな感じで動く」みたいなのはちゃんと出来ているのだが、万聖街の豊富なアイデアが詰ったバトルには勝てない感じ。

 アクションと言えば、チェンソーを使ったバトルというのはあれで良いのだろうか。チェンソーというのは押し当てて切る道具であり、刀みたいに振り下ろして切ることは出来ないだろう。これもやはり漫画では止っているので描く必要がなく誤魔化せているのだが、アニメではアニメなりのチェンソーバトル作画の答えが見つけられていなかった。

演出のセンスの問題

 中山監督がいろいろなメディアでインタビューに答えている。やめとけばいいものを。初監督作品なのにハードルを上げるような事をして良いのかね。

 しかし、中山監督の演出方針には共感しっぱなしで合った。アキバ系みたいなアニメっぽいアニメは好きじゃなさそうで、実写映画みたいなのをやりたいとか。私も同感である(ハルヒは好きだが)。その意気やよし。しかし、どうもそれがそこまで上手くいっていたかどうか。先述の通り、原作漫画の「映画的」演出をそのままなぞっては映画的にならない。映画っぽさを読者が補ってこそ、映画を志向した漫画であるからこその面白さなので。

 演出上のアイデアをどんどん出していこうという気概は感じられた。しかしどうもアイデアの量が不足していたんじゃないかという気がする。一例を。岸辺の特訓の場面で、デンジとパワーが眼鏡を懸けてバトルする。ここの岸辺のパンチ連打が不自然だという指摘は多くの人がしているからさておき、問題はその後の岸辺が回し蹴りしてデンジの顎か頬にヒットさせるシーンである。ここでデンジの眼鏡が吹っ飛ぶのだが、画面は飛んだ眼鏡を映して、次のカットでは地面に落ちる眼鏡を映す。このアイデア自体は面白いのだが、その提示の仕方には問題がある。ちょっとワンアイデア固執しすぎなのである。これみよがしというか押し付け感があるし、少ないアイデアでやりくりしてますという貧しさも見えてしまう。この点も万聖街との顕著な差である。

 この「乏しいアイデアの押し付けがましさ」は、やたらと凝った食事や着替えのシーンに顕著である。『アルプスの少女ハイジ』なんかを見れば分るが、生活描写というのは本当に丹念に描く事で魅力が出てくる。高畑作品は魅力的な(宮崎駿らの)レイアウトや美術でそれを見るに耐えるものにしている。そうではなく「生活を描けばリアルっぽい」という頭で考えたような弱いアイデアに頼ってしまった感があるし、アニメ的に魅力的なレイアウトがある訳ではない*2。そして妙にゆったりしている。原作になかったマキマの着替えとか。それだけでなく、人間の行動一切が何故かゆったりしている。歩くとか、タバコに火を点けるとか。習慣化した動作はもっとテキパキすべきではなかろうか。この演出の意図が分らなかった。もしかしたら監督には実際に世界がそう見えているのかもしれない。

 そして原作の「絵画的・前衛的」と述べたシーンなのだが、それをどう映像化するのかと思ったら、なんのアイデアもなかったんだよね…。原作の、銃の悪魔の殺戮を文字で表現するところと、呪いの悪魔の指がコマの外から伸びてきて攻撃するところがこれに当るが、アニメでは何か特別な演出をすることなく進んでしまった…。

 また、性的なシーンに品がない。18禁アニメのようなヌラヌラ感があった。姫野なんてメスブタを超えたメスブタになってしまている。これは原作の良さの解釈の違いだろう。

声優の問題

 渡部篤郎じゃないんだから!

 中山監督が「リアルな演技」みたいなことをインタビューで語っていた。もちろん現実では声優みたいにオーバーな喋り方をする人はいない。しかしだからと言ってそのまま抑揚をなくせばリアルに感じられるかというとそうではないんでないか。だったら戦闘でスローモーションを使うのもリアルじゃないからやめろって話になってしまう。

まとめ

 などと批判的な感想が多くなってしまったが、深夜アニメにしては破格のクオリティの素晴しい作品だったと思う。

 なんかアニメは大宣伝の割に微妙にコケた感じになっているらしい。タツキ先生はアニメへの思い入れが深いらしく、私は『AKIRA』みたいにタツキ先生本人が監督したら良いのになあとずっと思っていた。そうしたら大コケしたとしても伝説になっていただろう。とか思っていたら井上雄彦先生本人が監督した『スラムダンク』が傑作だったうえにヒットしてしまった…

*1:私はワンピースは面白いと思っているが品はないと思う。

*2:なんか「引きの絵が多い」みたいに叩かれているのだが、他のアニメと比べて多いか分らないしそこが決定的に魅力を削いでいる感じもしない。もっと全体的に薄らと原作のレイアウトに負けているようには思う。