この『お兄ちゃんはおしまい！』というアニメ、原作マンガをニコニコ漫画で読んでいてけっこう好きなので見てみたが、ものすごく不快なのである。この不快感の正体を突き止めるのだ。
まず作画面のクオリティは非常に高い。顔は原作同様アニメ調だが身体の皮膚や肉や骨の質感が異様にリアルである。キャラクターデザイナー・作画監督はチャイルドアイドルの動画をよく見て研究したんじゃないかと思える。それと動きもかなり細かく芝居が入っている。
なのだけれど作画の力の入れ方の方向が変なんじゃないかと思える。とにかく絵が気持ち悪くて不快の域にあるのである。原作はデザインも絵による表現も物凄くあっさりしている。そんなチャイルドアイドルみたいなリアルな少女の身体を私はアニメで見たくない。原作では、女体化して風呂に入るとか生理がくるとか水着を試着するとかいう話は全て、状況としてはエロいが意外にも卑猥さを感じない。アニメではそれらを尽くネットリとエロ描写にしている。場合によっては生々しいシーンをアニメでは足している（トイレに行くところとか）。盗撮みたいなレイアウトも出てくる。
第3話でかえでというギャルの子が出てくるが、原作と比べてやたらと爆乳化している。まひろに化粧をしようと迫る事でまひろが犯されると勘違いするギャグシーンも、なんか本当にエロい感じにしてしまっている。エロい事に対する距離感が原作とは全く違うのである。原作はエロそうでエロくない、少しエロいくらいだから笑いになっているのに、アニメでは本当に本質的にエロくしてやろうと思って作っている感じなのだ。
で、原作とテーストが違うから嫌だとかそんな話をしたい訳じゃあない。
これを最近わたしが凝っている性的モノ化を使って分析してみる。性的モノ化に関してこれまで江口聡先生の論文を読んだりティモ・ユッテン先生の論文を読んだりした。のだけれどもそれとは別で、性的モノ化応用編として江口先生が『宇崎ちゃん』の献血促進ポスターが叩かれた件を論じた記事がある。
私は『宇崎ちゃん』もニコニコ漫画で読んでいて好きだったのでこれは悲しい事件だったがそれはさておき。江口先生はポスターが(性的)モノ化と考えられる(かもしれない)根拠を三つ挙げている。その第三の点が興味深い。
ネット上では、女性を利用した性的な図画を目にする機会は多いし、また露骨で女性差別的な発言やそれに関連した攻撃的な発言もいやおうなく流れてくる。こうしたもの全体が、特に女性にとって脅威と感じられるのももっともであろう。
そうした女性の不快や脅威の感覚にまったく配慮しないことは、まさに女性たちのものの見方や感情を無視するという点で「モノ化」であり性差別である、ということがありえる。
私は男なのだが、これに類する不快感は『おにまい』から感じる。それは「肉体的魅力に基く直接的な性表現をやっておけばこちらが喜ぶとでも思っていないだろうか？」という点から来る。性差別的な表現を連想させるから不快という事は男の私には余りないが（女の人が見たら不快だろうなあと思って私まで不快になるという事は少しあるが）、「アニメ視聴者は物凄く単純な性への態度しか持っていない性的未熟者」というレッテルを押し付けられているかのような不快感があるのである。こっちはもっと高度なエロ表現を欲しているのにそれを無視されているように思える*1。これもユッテン先生の言う「社会的意味の押し付け」で、性的(な事柄に関係した)モノ化じゃなかろうか。
例えば最も売れている男性向け成年マンガ誌『COMIC 快楽天』の作品のエロ表現はもっと高度である。それはセックスの達成感は単にセックス参加者の肉体的魅力や卑猥なアピールの多さによるのではなくもっと精神的な繋がりによるという事を快楽天読者は知っているし、快楽天作家はそうした読者を作品を通じて育んで信頼して描いているからである。『おにまい』も、原作はそんなにエロくないのはおいといて、エロ表現をやるならもっと視聴者を信頼して解釈に委ねてくれないだろうか。それとも作り手もそういう直接的なエロで欲求を満す経験しかしてこなかったのだろうか。ならしゃあないけど。
ティモ・ユッテン先生の論文を読む記事で『チェンソーマン』の原作とアニメの違いを例として精神的な面を軽視したエロ表現を批判したが、『おにまい』はもっと的確な例である。というか『チェンソーマン』は原作と雰囲気が違うという事で随分叩かれたが、『おにまい』こそそうならないとおかしいんでないか。
なお、宇崎ちゃんは公共の場に掲示されたという事で問題になった訳で、私は『おにまい』の原作ファンだとて無理やり見せられるという事もないので、何か道徳的な問題があるとは思わない。単にアニメ作品として低く評価するというだけである。
*1:なんかこう書くと私が性的熟練者みたいだがそんな事はないです。性的未熟者でも性的未熟者扱いされたら不快でしょう。
