絶賛上映中の『我々は宇宙人』について、3つ目の記事。前の記事は↓から見てね。
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今回は↓の2つの記事に連なることを書きたい。
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『我々は宇宙人』を、もっと大きな史的文脈から考えたい(といっても個人的な史観になるが)。主に何を言いたいかというと、現代のアニメ界では、芸術路線(いわゆる「アニメーション」)とエンタメ路線(いわゆる「アニメ」)の違いが薄れてきていて、その流れの極地に『我々は宇宙人』が生まれたということだ。
現代アニメ史の最初の大きな転換点は、2002年の新海誠「ほしのこえ」だろう。これの何が画期的だったかというと、私が思うに、個人制作で中編のSFエンタメ作品が作られ、しかもヒットしたことである。個人制作のアニメというと、基本的には「実験アニメーション」と言われる個性的で芸術的な作品が普通だった。新海は、個人制作ならではの作り込みでエンタメをやってみせたのである。
しかも新海は、当時すでに流行っていた「萌え」の観点に加え、新たな物語ジャンルである「セカイ系」をやってみせたのだ。ただ、こうした要素は、個人制作というスタイルも相まって、高畑勲などから「社会性の欠如」を批判されもした。
とにかく、これを機に、「大手制作スタジオで下積みから出世して監督になる」というのではないルートが生まれた。これにより、大袈裟に言えば、アニメーションにおいて芸術性とエンタメ性は二者択一ではなくなったのだと思う。ただし、吉浦康裕などを除いて、この新海の路線は意外と後続者が出なかった。
第二の転換点は、2013年の『惡の華』だと考える。これは漫画を原作としたテレビアニメで、何がすごかったかというとロトスコープという手法を使ったことである。ロトスコープというのは、先に実写で撮影した映像を作り、それをなぞって作画するという手法だ。黎明期のディズニーや東映動画も使っていた歴史ある手法だが、『惡の華』で初めてテレビシリーズで全編にわたって用いられた。
ロトスコープの長所はいろいろあるが、なんと言っても大きいのは、実験アニメーションのような生々しい質感を、ある程度まで省力で実現できるという点である。超絶的なアニメート技術を、何をトレースするかというセンスや勘と、絵そのものの技術(アニメートでなく)で代替できるのだ。『惡の華』に続いてロトスコープを本格導入した大規模なアニメ映画は、岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』だった。岩井は実写映画の監督であり、アニメの経験はほとんどない(この前にロトスコープで短編を作っている)。にもかかわらず作れたのはロトスコープという手法の力が大きいだろう。『花とアリス殺人事件』でアニメーションディレクターを務めた久野遥子については、上の「2020年代のアニメ総まとめ」を参照。
最後に第三の転換点は、2020年の『音楽』である。監督の岩井澤健治と少数のスタッフが、7年も掛けて完成させた(短めの)長編作品だ。「ほしのこえ」よりも倍以上長く、またエンタメ性も高い。それでいて自主制作らしく実験アニメーションのような生々しい質感も保持しているのは、やはりロトスコープという手法を使っているからだ。
この『音楽』が示したのは、自主制作でもロトスコープを使って丹念に時間を掛ければ、芸術性とエンタメ性の融合を「ほしのこえ」よりさらに大規模な作品でもギリギリできるのではないかということだ。この方向性は、同じく岩井澤監督の『ひゃくえむ。』でさらに高い次元に到達した。
少人数で長い時間をかけて芸術性とエンタメ性を両立した作品を作るという方針は、その後『ルックバック』や『花緑青が明ける日に』に繋がっていく(これらはロトスコープを前面に使ってはいない)。ようやく新海誠の後続者が現れ出したという感じだ。
ただし、若き日の新海が食らったような「社会性の欠如」はいまだ多くの作品で感じられる。つまり、アニメに懸ける熱意はあっても、それ以上の物語のテーマがないものが多い。これは『ルックバック』で強く感じ、その他のアニメ映画で常に不満だったことだ(『ひゃくえむ。』なんかは良いテーマだったが)。これについても上の「2020年代のアニメ総まとめ」を参照。
そんな中で現れたのが『我々は宇宙人』である。本作は現代アニメ史の流れの到達点である。ロトスコープを用いて少数のスタッフで丹念に時間をかけて作った作品であり、それに加えて世の中に訴えるテーマを持っていた。単なる技法の見せびらかしに終わっていない。技法によって描くべきテーマがあったのだ。120分という『音楽』『ルックバック』『花緑青』より遥かに長い長編を、一貫した物語に費やしている。これは画期的であった。
門脇康平監督はまだ29歳らしい。この若さでここまで到達してしまった。私の史論に収まらないさらなる展開を見せてほしい。