曇りなき眼で見定めブログ

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津堅信之『日本アニメ史』(中公新書)は良い本だ!

 みんな買って読もう!

 アニメに関してはセンチメンタルな批評書はよく出るが研究書は稀である。本書は研究書というほどではないが研究者がなるべく価値判断とか解釈を廃して歴史を叙述していて、それだけでも私は高評価しちゃう。

 著者の津堅信之氏は大学講師なんかをやっているアニメーション研究家で、これまでにも通史を書いているらしい。私はまだあんまりアニメ関係の書籍をたくさん読んでいないのでよく知らなかった。

 本書はアニメーション技術の誕生から日本アニメの歴史を纏めている。私は戦前から戦後すぐあたりのアニメ事情を全く知らなかったので大変勉強になった。アニメが初期の日本では凸坊と呼ばれていたとか、戦中や戦後にはプロパガンダに積極的に使われたとか。またアート系のアニメーションも私はよく知らないのだが詳しく歴史が述べられている。東映動画の台頭あたりからは知っている話も多かったが、私の知識は「アニメスタイル」やWikipediaの(怪しい)記述なんかで断片的に得たものが多いので、本で参照できるようになった意義は大きい。

 あとがきでも断ってあるが、本書は監督やスタジオの歴史、時代ごとの社会的背景とそれによる作品テーマの変遷に記述のウェイトが置かれている。なのでアニメーターの名前が殆ど登場しない。監督であってもアニメーター時代の業績が省かれていたりするし、井上俊之氏や磯光雄氏は名前も登場しない。歴史を書くにはいろいろな切り口があるだろうが、私だったら作画という観点から書くだろうなと思った。

 最後の方では津堅先生の現代アニメ界に対する若干の危惧が滲み出ている。3DCGに消極的であったりネット配信への対応が遅れたりした日本アニメを「反グローバリズム」と評していたりする。そうして独自の道を歩んだ日本アニメだが、当ブログで度々取り上げている中国アニメ「羅小黒戦記」についても少し触れられていて、日本のアニメのスタイルは独自のものではなくなったというようなことも述べられている。「君の名は。」や「鬼滅の刃」のようにメガ・ヒットはするが作品としての価値がよく分らないものへの戸惑いも率直に書かれていた。しかし私は、日本のアニメがどんどん粗製濫造化・広告代理店頼み化していく中で、日本アニメのスタイルを継承しつつ高いクオリティを示した「羅小黒戦記」はむしろ希望のように思っていて、日本のアニメがダメになっても中国でおもしろいのが出てきたならラッキー、みたいに感じていた。だからそんなにアニメの未来を危惧していない。もちろん日本アニメにも頑張ってほしいが。