ひさしぶりに読んだ本を紹介しまっせ。重めの本をけっこう読んだ。
ラジャ・ハルワニ、江口聡・岡本慎平監訳『愛・セックス・結婚の哲学』
セックス哲学の入門書。2段組みでかなり分厚い。
思想史や社会学・人類学なんかの研究もおさえつつ、分析哲学の手法を使って恋愛・セックス・結婚を論じている。恋愛の定義とか、セックスは善いことかどうかとか、結婚の制度をどうすべきかとか、そういうテーマが章ごとに設定されている。
どの章もテーマと構成が明快である。また多くのパラグラフが「第一に」「次に」とかで始まっていてかなり厳密に論理的に構築されている。用語も細かく定義されている。先行研究のレビューもしっかりしている。全体的に分析哲学の良いところが出ている本だと思う。
トゥイッターでよく話題になる「性的モノ化」とポルノ批判を扱った章もあるので、みんな読むべきだと思う。ハルワニ先生の立場は、反ポルノの論には批判的。
本書中で何度も参照される、ハルワニ先生の師匠だというアラン・ソーブルという人にも興味がわいた。翻訳が出ないかな。
飯田隆編『リーディングス数学の哲学 ゲーデル以後』
哲学研究室で論理学を研究する者として、数学の哲学もちょっとは知っておかねばと思い、読んだ。ゲーデル以降の数学の哲学の重要論文を翻訳して解説を付した本。
やはり私としては、本書中ではゲーデルとかプラウィッツのように具体的な数学や論理学の研究プログラムを提案している論文がおもしろかった。それ以外のテツガク的な論文は、「じゃあその議論を受けて我々はなにをすればいいのよ」と思ってしまう。
飯田先生らの解説はわかりやすい。
小黒祐一郎ほか『アニメマニアが語るアニメ60年史 1963~2023』
↓前に読んだ作画史の本と同様、雑誌『アニメスタイル』のトークイベントを本にしたもの。
cut-elimination.hatenablog.com
編集長の小黒さんが主に語っている。
前半は小黒さんの史観によるアトム以降のアニメ史なのだが、後半は「アニメ」と「アニメーション」の違いという哲学的なテーマで進んでいく。これは私が以前に書いた論文でも扱ったテーマである。
cut-elimination.hatenablog.com
小黒さんは「アニメ」と「アニメーション」に加え「和製アニメーション」という第三のカテゴリーを提案している。そしてアニメ史のなかでこれがいかに生まれいかなる意味を持っているかを語る。私の論文の議論も修正を迫られるなあ、と思った。
学術書ではなくトークの記録なのだが、それでもかなり知的で理論的な本だと思う。
『アセモグル/レイブソン/リスト 入門経済学』
ようやくちゃんと経済学の教科書を一冊読めた。
本書はミクロ経済学とマクロ経済学の教科書2冊のうち基本的な章だけ抜き出して1冊にしたもの。それでもかなり分厚い。
分厚いが書き方はかなり易しい。難しい数式なんかは出てこない。
それまでの教科書と違うのは、実証的なデータをたくさん載せて、理論に偏りすぎないようにしていることらしい。これは助かった。リーマンショックのときの住宅価格のデータとかも載っている。
著者の一人のアセモグル先生という人は去年のノーベル賞受賞者である。経済成長の歴史とかを研究している。そのへんの研究が反映されていると思しき章もある。