いろいろ本を読んだので紹介するます。
- デイヴィッド・チャーマーズ、林一訳『意識する心』
- 鈴木貴之編著『人工知能とどうつきあうか』
- ジョセフ・ヒース、栗原百代訳『資本主義が嫌いな人のための経済学』
- 沓名健一、小黒祐一郎『作画マニアが語るアニメ作画史2000~2019』
デイヴィッド・チャーマーズ、林一訳『意識する心』
めちゃくちゃ難しかった!
意識研究はこの本以前以後で分かれるくらい重要な本である。「意識のハードプロブレム」というのを明確化した。それとゾンビ論証というのを多用するのも影響力が大きいんじゃなかろうか。
意識について自然主義的な二元論をとる、つまり意識は物理学に還元できないがかといって自然主義も諦めないというのが本書の立場である。しかも後半では「情報」というものの一元論のほうが良いかもしれないというふうにも進んでいく。なかなか斬新な議論なわけだが、読んでいくとそれほど突飛でもないように感じる。
それよりも分析哲学を延々と論じるパートが難しかった。付随性とか一次内包と二次内包とか。哲学科なのに情けない話である…
鈴木貴之編著『人工知能とどうつきあうか』
人工知能について哲学者とAI研究者が集まってそれぞれいろいろ書いた本。ぶっちゃけあんまりおもしろくなかった! まあ鈴木先生も書いているように萌芽的な研究だから仕方ない。
哲学者たちは抽象的というかあたりさわりない話ばかりしている感じがした(唯一踏み込んで書いていた柴田崇先生という人の論考はあまり理解できなかった)。AI研究の表面をなぜて古典を持ち出してなんやかや言っているだけというか…。怪盗キッドがコナンに言った「怪盗はあざやかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが探偵はその跡を見てなんくせつけるただの批評家にすぎねーんだぜ?」という名言を思い出した。
「説明可能なAIが研究されている」というような話が何度も出てくるが、それがどういう研究なのかはよくわからなかった。
ナッジとブーストの章はおもしろかったかもしれない。
本書が書かれた頃から生成系AIが急速に進歩していて、本書は早くも古くなっている気がする。
ジョセフ・ヒース、栗原百代訳『資本主義が嫌いな人のための経済学』
この本は非常におもしろかったし勉強になった。今後の私の強い味方になりそう。ジンブン左派知識人の酷いアニメ批評を批判することが当ブログのメインコンテンツだが、そのための確かな経済学の知識を与えてくれた。本書第二部ではそういう「資本主義は酷い、いずれ終る」みたいな左派の紋切り型の主張をズバズバ批判している。
さらに良いことに本書第一部は右派の反資本主義的言説を批判している。つまり「左派は本当はこうやって右派の間違いを指摘すべきなんだよ」ということまで教えてくれるのである。
セーの法則とか比較優位の説明がわかりやすくて良かった。賃金の問題も。保険や便乗値上げの話はちょっと難しかった。
貧困の原因の一つは双曲割引なるものだとかいう話はたいへんおもしろかったが、これはけっこうヒース先生の独自色が強い考え方かもしれない。
沓名健一、小黒祐一郎『作画マニアが語るアニメ作画史2000~2019』
一流アニメーターであり日本トップクラスの作画マニアであり研究家・批評家的なセンスも持っている沓名健一氏が現代作画を語った本。アニメスタイルの配信イベントの書籍版で、聞き手は編集長の小黒祐一郎氏。アニメスタイルにはお世話になっています。私は配信や動画で人の話を聴くのが苦手なので本が出てありがたい。資料としても文字は良いし。
沓名氏のアニメ知識はすさまじく、私なんぞ何も知らんなあと打ちのめされる。本書を参考にどんどん見ていきたい所存。しかしマニアならば本書で挙げられている作品くらいはやはりチェックしておかねば。
沓名氏はいわゆる「WEB系」のパイオニアで、その内実が詳しく語られていて興味深い。WEB系の起源とか具体的に誰が関わったか、とかである。
それとトーク中に「素朴系」という新しい概念が提唱されている。宮﨑駿が『ハウル』から『ポニョ』で見せた転換と、田辺修、小西賢一、押山清高といった人たちの作風だという。これを受けて私もいろいろ見てみたが、確かに素朴系という流れはある感じがする。
私も好きなタイプかも。
また沓名氏が2000~2019年の20年間で最重要の作品を『人狼』と『日常』と言っていてあまりに両極端で笑ってしまった。
ところで小黒さんは編集業やライター業の人だが、ご自身の単著を書くことはないのだろうか?