またいろいろ本を読んだので紹介しまっせ。
氷川竜介『日本アニメの革新』
日本を代表するアニメ(と特撮)研究家・評論家の氷川竜介先生のアニメ史解説本。
アニメ史の新書としては津堅信之『日本アニメ史』も良い。
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同書と比べて氷川先生の本書は、メインで取り上げる作品を絞り、歴史のストーリーに重きを置いている。なので読み物として読みやすい。また作画や撮影機材など技術面の解説も多め。それと独自の批評的観点もある。
研究書のスタイルでは書かれておらず、参考文献表なんかはない。それよりも、長年アニメを見てきた氷川先生の回想録みたいな感じである。『ヤマト』のファン活動の例としてご自身の同人誌を取り上げたりとか。つまり本書自体がアニメ史の一つの資料である。
私としてはだいたい知っている内容だったのだけれど、それでも「世界観主義」など氷川先生のアニメ観にそってアニメ史をおさらいできておもしろかった。
私は『宇宙戦艦ヤマト』が好きでないのだが、当時としてはどれくらいすごいアニメだったのかはよくわかった。
ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター、栗原百代訳『反逆の神話』
カウンターカルチャー論客を目指しているのと著者の一人ジョセフ・ヒース先生に興味があったのとで読んだ。大変おもしろかった。
カウンターカルチャーの思想を批判する本である。著者らのバックグラウンドは哲学だが、経済学にも造詣が深いようで、その知見を生かして反逆思想を切っていく。カウンターカルチャーは、ルールというのは体制が抑圧のために生んだと考えがちだが、そうではなく自発的・必然的に生れるというのをゲーム理論を使って説明する。それと、20世紀のカウンターカルチャーはやたらと消費社会批判にこだわったが、この批判もどれもこれも間違っている、むしろカウンターカルチャーこそ消費社会の肥やしであるというのをどんどん立証していくのである。痛快でおもしろかった。
2020年に付された序文で、いまの若者はそれほど消費にこだわっていないとか書かれている。これはそうだと思う。現代日本でもカウンターカルチャーは反消費社会の形はとっていないっぽい。そもそも現代日本のカウンターカルチャーはなんだって話だが。このあたりはいずれまた書くつもりです。
著者らはカウンターカルチャーが全面的に嫌いというわけでもなく、若い頃にカウンターカルチャーにハマった黒歴史が本書の端々で披露されていて、愛憎入り混じる感じがまたおもしろかった。
井奥陽子『近代美学入門』
これも大変おもしろかった。著者はバウムガルテンの研究者である。ただし本書ではバウムガルテンの名前は一度も出てこない。ストイックである。
私は20世紀の批評理論や分析美学は勉強していたが、それ以前の美学・藝術論成立期のことはまったく知らなかったので勉強になった。各章は芸術・芸術家・美・崇高・ピクチャレスクに当てられている(ピクチャレスクだけ聴きなれないかもしれないが、風景なんかが「絵になる」という感じのこと)。これらはすべて18世紀に確立した西洋近代的なものでしかないという。あまり美や藝術を絶対視しないようにというメッセージが込められている。
各章のストーリーと論理展開が明快で、難しい内容の割に読みやすかった。カントとヒューム以外は哲学史のなかでもマイナーな哲学者ばかり出てくるのが哲学史に疎い私には新鮮だった。