曇りなき眼で見定めブログ

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ゴンブリッチとアニメーター

 清塚邦彦『絵画の哲学』を読んでいる。

 第2章はエルンスト・ゴンブリッチという美術史家の理論の紹介・検討に充てられている。ゴンブリッチは哲学者ではないが、その後の分析美学・藝術哲学に多大な影響を与えているらしい。

 その2章の第5節で図式という考え方が出てくる。ゴンブリッチは、画家が絵の描き方を習得するのは描く対象をよく見ることによってでなくお手本の模倣による、ということを強調しているらしい。これは対象の真の姿あるいは真の見え方を写し取るという絵画観を批判するためらしい。画家は対象をよく見て描くこともあるが、それは前もって模倣により図式というものが習得されているお陰らしい。

 これを読んでいて、最近読んだ『井上俊之の作画遊蕩』の内容を思い出した。井上さんは、自分たちはリアル系アニメーターでありながら実写映像や実物を参考にして描くということを(不思議と)あまりしてこなかったと何度か語っている(60-61ページなど)。

井上さんなんかは、アニメが好きでアニメの作画をたくさん見て描き方を習得したタイプらしい。アニメーターの世界でも、対象を見ることより図式の習得が重要なのだろうか。しかし、最近は自分で動いてみてそれを撮影して作画のガイドとする人も多いとか。また宮﨑駿なんかも「アニメばかり見てないで自然を観察しろ」的なことをよく言っている。

 『絵画の哲学』では、図式が修正されるのはどういうときかと問うてゴンブリッチにツッコミを入れている。図式の習得が重要だとしても、より現実に近づくような描き方が発見されたらそれに基いて図式が修正されるはずで、しかし現実の対象(あるいはその真の見え方)を写すことを批判するゴンブリッチの説には、これは上手くそぐわない。井上さんと駿らのスタンスの違いも、こうした微妙な問題と関わるのかもしれない。また「作画におけるリアルとは何か?」という哲学的問題とも関係してきそうで、気になるところである。