曇りなき眼で見定めブログ

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河野真太郎『増補 戦う姫、働く少女』徹底批判シリーズその17 キャッチコピーをもとに批評するのをやめないか

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 河野真太郎『増補 戦う姫、働く少女』

 映画やアニメを論ずる際、そのキャッチコピーから作品を読み解いていくということは、基本的にすべきではない。本書で河野先生も宮﨑駿監督『もののけ姫』『風立ちぬ』や高畑勲監督『かぐや姫の物語』のキャッチコピーについてかなりの分量を割いて論じている。しかし、もちろんキャッチコピーは作品の一部とは言い難い。

 キャッチコピーは鈴木敏夫とか糸井重里とかその他プロデューサーが主導して付けたもので、監督の意図は殆ど反映されない。少なくとも後から宣伝のために付けられるものだから、物語の解釈をする際にキャッチコピーに惑わされてはいけない。本書中で河野先生も高畑監督が『かぐや姫の物語』のキャッチコピー「姫の犯した罪と罰」をあまり気に入っていないことをちゃんと指摘している(212ページ)。アニメ映画は多くの人が携わって作られるもので、キャッチコピーもその工程の一部と言えるかもしれないが、そもそも本書はアニメ映画作品の作者として監督を強く想定しているわけで、本書でキャッチコピーを大きく取り上げるのは妙である。本書ではキャッチコピーをあからさまに作品の一部かのように読解しているわけではないが、私の考えではそれだけだと不十分で、もっと積極的に無視していくべきだと思う。

 『風立ちぬ』のキャッチコピー「生きねば。」はマンガ版『風の谷のナウシカ』の最後のセリフであることは有名である。有名であるが、『風立ちぬ』のキャッチコピーの印象が強いために『ナウシカ』のセリフとしても再注目されたように思われる。本書は『ナウシカ』の大きなテーマとして「生きねば」を取り上げているのだが、これも『風立ちぬ』のキャッチコピーとしての「生きねば。」に引っ張られすぎだと思う。またナウシカのセリフも、ナウシカが生き残った人びとに向けていっているのであって、駿が読者に向けて言っているというのとは少し違う。

 『もののけ姫』のキャッチコピー「生きろ。」は私は糸井重里の名作だと思う。これは作中でも名言なのだが、アシタカは「そなたは美しい」と合わせて言う。ここから「生きろ。」だけ取り出したから上手いのである。なのでキャッチコピーでは作中とはちょっと違う意図が生れていると思う。また、公開が「エヴァンゲリオン」の劇場版と富野監督の『ブレンパワード』と同時期で、これらのキャッチコピーが「だからみんな、死んでしまえばいいのに…」「頼まれなくたって、生きてやる!」とそれぞれ「生きろ。」好対照だったことから「生きろ。」がより印象的になったという事情もある。

 というわけで、キャッチコピーはおもしろい。

 本日『ブレンパワード』のキャラクター原案を務めたいのまたむつみ氏の逝去が報じられた。ご冥福をお祈りします。