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宇野常寛『ゼロ年代の想像力』徹底批判シリーズその7 『ジャンプ』は本当にポストモダン化したのか?

 宇野常寛ゼロ年代の想像力

 ↓これの続き

cut-elimination.hatenablog.com

 今回は宇野先生の『週刊少年ジャンプ』論を取り上げまっせ。

 ジャンプのことは1章や5章で論じられている。90年代にジャンプはそれまでの「トーナメント」方式から「バトルロワイヤル」へと移行したという。これがポストモダン状況の進行の反映らしい。

 宇野先生の議論にはいくつかの混乱がある。まず、本当にトーナメントからバトルロワイヤルへの移行は起きたのか。『ドラゴンボール』は天下一武闘会というトーナメントがあったが、同時期の『北斗の拳』はバトルロワイヤル的な作品である。宇野先生によると『幽☆遊☆白書』はトーナメントからバトルロワイヤルへの分岐点らしいのだけれど、冨樫先生はその後も『HUNTER×HUNTER』でトーナメントをやっている。やはりここでも宇野先生は、作品の詳細な分析を怠って、ご自身の作る大きな図式を過信してしまっている。

 もう一つ、トーナメントよりもバトルロワイヤルのほうがポストモダン的か、というのが疑問である。『ドラゴンボール』はけっこう行き当りばったりの物語だったがトーナメントが出てこない『ONE PIECE』は物凄く堅牢に物語が作られている。ポストモダン状況の徹底の逆のことが起きているように思える。また、トーナメントといっても特に「試験」のような制度的なトーナメントが登場する少年漫画が増えた印象もある(ハンター試験とか中忍試験とか)。これもポストモダン状況の逆に見える。

 文庫版の付録のインタビューでは「バトルロワイヤル系」「サヴァイヴ系」より「カードゲーム系」のほうが良かったかもしれないと語っている。本編中でもバトルロワイヤルとカードゲームを同一視するような箇所がある。しかしまったく違うのではないか。ジャンプのカードゲーム漫画といえば『遊戯王』だが、同作はやはりトーナメントが重要である。宇野先生的には力比べでないという点でカードゲーム系としたかったようなのだけれど、それとトーナメント方式であることとは普通に両立するし、『遊戯王』も『HUNTER×HUNTER』もそうしている。バトルロワイヤルとかカードゲームとかもう少し考えたほうがよかったのでは。

 というわけで、ジャンプがトーナメントからバトルロワイヤルに移行したという事実があるかどうか疑問というのと、そうだとしてポストモダンの反映と言えるか疑問というのと、バトルロワイヤル概念の妥当性が疑問という回でした。

 

 追記:↓続きはこちら

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