やたらと評判が悪くて、どんなもんじゃいと観にいったが、そんなに悪くなかった。
しかし話題作で公開2日目の土曜日なのにガラガラすぎた!
ヒットしてないのはやはり予告の段階で評判が芳しくなかったからだろう。私はけっこうおもしろそうだなと思ったのだが。芦田愛菜の演技が迫真すぎるのと、男のキャラクター(聖)がメタバースのザッカーバーグっぽくてあまりかっこよくなかったのはいただけなかったが。スカーレットのキャラクターデザインは前作『竜とそばかすの姫』のベルと同じディズニーの人がやってるっぽく、それは私にはプラスだった。ベルのデザインが良いと思ってた人は私だけではなかったのか、と思った。
で、観てみて驚くのが、とにかく暗いのである。陰惨な暴力のシーンが延々と続く。アクションというより暴力である。そりゃあ細田監督と言えば『時をかける少女』や『サマーウォーズ』みたいな痛快娯楽作だ、というイメージを持って観にいく人からしたら評判悪いだろう。
それとなんだかフワフワしたまま話が進んでいく。近世のデンマークの王女スカーレットが、父の仇の叔父を殺そうとするも果たせず、逆にやられて死後の世界に行くという話である。それはわかったのだが、じゃあなんで死後の世界にも叔父のクローディアスがいるのか。なんで死後の世界をクローディアスが支配しているのか。そこがわからない(最後になんとなくわかるが)。スカーレットがその世界を理解して順応していく過程が描かれていないからである。
よくわからない世界を説明しないまま描いて、それでもおもしろい作品というのももちろんある。『君たちはどう生きるか』とか、ギンツ・ジルバロディス監督の『Away』や『Flow』がそうだった。しかしこれらの作品は、奇妙な生き物が出てきたりとか美しいシーンがこれでもかと続いたりとかして、わからなくても楽しめる。それどころかわからないことが魅力となる。なのだけど本作は、陰惨な暴力ばかりの世界なので魅力がない。雷みたいなのを降らすドラゴンが出てくるのだけ魅力的だが、ああいうのをもっと出してほしい(あのドラゴンが復讐するか否かという問題をデウス・エクス・マキナ的に解決してしまうのはどうかと思ったが)。
急に渋谷駅の前で踊る幻影を見るシーンなんて、さすがに
「?」
だった。現代日本で幸せに暮らす姿を想像するという意図のシーンなのだろうが、なんで渋谷でダンスなのだろう。もっといろいろあるだろう。原宿で服買うとか。なんか全体的にズレている。
良いポイントとしては、スカーレットがけっこうエッチだったこと。あと芦田愛菜が、演技は迫真すぎるが、歌はいい感じに上手かった。それと、最初は聖が現代日本の善人の価値観で近世ヨーロッパ人のスカーレットに説教していく流れだと思ってどうなんと思ったのだが、そういうわけでもなかったのが良かった。あと地平線とか水平線が描かれるカットのレイアウトは美しい。
もっと良かったのは、スカーレットにとっての現実世界のパートである。本作は全体的にほぼCGだが、現実パートは作画で描かれる。なかなか綺麗で良かった。もっともそれだったら、昨年の『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』のほうが、同じように昔のヨーロッパ的な世界を描いていても断然良いが(なんでこれが話題にならなかったのかわからない)。
cut-elimination.hatenablog.com
最後のスカーレットが王になって民と話すシーンは牧歌的すぎてアカンと思うが。
公開前に↑の子ども向けノベライズをチラッと立ち読みして、どうも『ハムレット』が元ネタらしいというのはわかっていた。まあしかし父の仇への復讐というテーマと登場人物の名前と舞台が同じなくらいで、そんなに関係ない。復習すべきか否かみたいな葛藤はたしかに描かれているが。
