本当におもしろかった!
宮崎駿は神!
ネタバレ注意!
まずなによりも、まったく宣伝しないという方針をとった鈴木敏夫Pに感謝する。鈴木Pは「スラムダンク方式」とか言って敢えて宣伝しないという宣伝方式だとしていたが、ぶっちゃけ宣伝効果があったのかどうかはわからないし、これが鈴木Pの本心かどうかもわからない。とにかく私は観る前も観ている間中もずっとワクワクすることができた。私のようなジブリ・ファンは宣伝しようがしまいがどうせ観るわけで、なんの情報もないという緊張感のなか観ることができた分ものすごく良かった。ありがとう鈴木さん。例のカンヤダ騒動でちょっとバカにしてました。すみません。
そして作品はというと、宮崎駿の渾身の一作ということで身構えていたが、思いのほか愉快だった。ポスターのイケメン具合とは打って変ってブサイクに変化するアオサギ、見た目も知能もなんG民(なんJ民)みたいなインコたち、そしてかわいいワラワラ(?)。ヘンテコなキャラクターが次々と登場して、事前情報がなかったことと相まって予測がつかない。そして登場人物の本心が見えづらいのも良い。心というのは見えづらいものなのだから。以上の特徴は、最近の説明や内言が過剰なアニメを見慣れている人は驚くのではなかろうか。
私はもちろん宮崎駿は日本史上最高のアニメ作家だと思っているが、実はそもそも駿は日本のアニメ史の王道の人間ではないのだと思う。権威のようでいて新しい。私は本作の「斬新さ」に驚いたのである。『トトロ』や『千と千尋』の延長のようではあるが、大江健三郎やガルシア=マルケスといった小説家の魔術的リアリズムをも思わせる。フランス語圏のアニメーションぽくもある。むしろこれまで築いてきた「ジブリ的」世界をどんどん破壊して更新しているように見える。80歳になってなお野心的で、なんならまだまだ作れるんじゃなかろうか。
高畑勲や保田道世をモデルにしたキャラクターが出てくるという噂はあったのだが、大叔父さまとキリコはそんな感じである。アオサギは敏夫か。主人公は父親が飛行機工場をやっていたりしてもちろん駿自身がモデルだろう(年齢は違うが)。大叔父の意味深な発言とか積木や石をはじめとした様々な象徴的なアイテムをうまく読み解く解釈がありそうなのだが、ちょっと私にはわからない。研究やインタビューを待ちたい。しかし何か人生にとってすごく重大な寓意がありそうな雰囲気は漂っていて、何度も見て噛みしめたくなる。
あと冒頭の群衆は大平晋也氏の作画でしょうな。いきなりで驚いた。クレジットを見て原画の人数の少なさにも驚いた。
アニメってなんておもしろいんだろう! と感激しました。2020年代になってなおかけがえのない一作を生み出してくれた宮崎駿監督とスタッフ・キャストに感謝いたします。