曇りなき眼で見定めブログ

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千葉雅也『現代思想入門』は良い本じゃ!

 一応フランスの論理学者(ジラール)の理論を研究している身としては、フランス思想の事も知っておこうと思い、読んだ。まあジラール先生はポストモダン思想なんて全く参照していないが。

 千葉雅也『現代思想入門』講談社現代新書

 非常に易しく書かれているのが良かった。千葉先生はTwitterを見た感じ怖い人かと思っていたが本当は優しい方なんでしょう。

 ただし易しすぎてどうも何にでも当て嵌まるような大きな一般論みたいになっている感じも否めない。「あ〜確かにこういう事ってあるよな〜」とはなる訳だが、それどまりというか。それと思想の難しい内容にまでは入らないので「とりあえずここではそういうものだと思って」みたいになり、知的刺激まで行かない箇所が多かった。

 脱構築というのが解説されている訳だけれど、これって逆張りってやつじゃん、と思った。と思っていたら後半では本文でも逆張りという言葉を使っていた。ライフハックとか思考術としての逆張りの入門書として良い本ですわ。

 ただの逆張りだったら多くの人がやっている訳で、そんな中デリダドゥルーズフーコーといった人たちがどう逆張りに成功したか、どう逆張りで成功したか、が重要となる。その辺りは思想家ごとに感想を書く。

デリダ

 脱構築という思考法を明示したのは凄いと思うが、それを使ってやったのがパロールエクリチュール脱構築との事で、これの何が凄いのかは解らなかった。本書ではソシュールの名前が出てこなかった気がするが、多分ソシュール以降の言語学の批判なのだろう。ただ、デリダの批判によって言語学などの科学研究が変ったのかどうかは知らない。

ドゥルーズ

 ドゥルーズと言ったら形而上学のイメージだったのだが、どうもこれを読むと西洋の形而上学の先入観みたいなのを批判した感じである。つまりメタ形而上学なのかもしれない。残念ながら本書の「何にでも当て嵌まる大きな一般論」ぽさがいちばん出ていたのがドゥルーズの章だった。千葉先生の専門分野のはずだが、だからこそなのか。問題はその形而上学批判によってどんな理論を作るか、であろう。それについては本書では解らない。

 量子力学エンタングルメントとの親和性がちょっとだけ触れられていたが、エンタングルメントはドゥルーズに触発されたものではないだろうし、ドゥルーズ量子力学の動向を知っていた訳でもないだろうし、だからどうした感がちょっとある。まあ量子力学や量子計算の研究者が存在の脱構築というのに触発されて研究が進んだりしたら素晴しいですな。

 あと千葉先生はインターネットというかSNSというものを嫌っているようなのだが、私は最近は逆張りSNS社会を肯定するようになっている。Twitter万歳。

フーコー

 フーコーはけっこう興味がある。本書の中でも具体性が結構あって良かった。

 具体性があるという事は反証可能性があるという事なので、実際は後の歴史研究でたくさん批判されている筈である。そこまでは本書では触れられていなかった。

 あと反ワクチンは生政治への反抗とも取れるので支持する事はできるというような事が書かれていたが、生政治の何がいけないのかが解らなかった。フーコーがダメだって言ってたらダメなのか!?

ラカン

 ラカンはヤバイ。まったくもって科学的に感じられない。なんでジンブン系の人は精神分析がこんなに好きなのだろう。なんか用語がかっこいいからだろうか。本書のフロイトの箇所で

 そういうこともあって、精神分析には非常に多くの反発が寄せられます。たとえば「そんなものは科学的に証明されていない」というのは中立的な反発に聞こえるかもしれませんが、そのなかにはそもそも精神分析的な裏腹の心理を自分自身で引き受けたくないという反発─これを精神分析の用語で「抵抗」と言います─が含まれている面もあるのです。精神分析に対する批判を百パーセント抵抗だとは言いませんが、抵抗の部分もある程度あるだろうと言えると思います。(124ページ)

と書いている。批判者の深層心理にそういうのがあったとしても批判は有効なのであまり意味がないと思った。それと、カール・ポパーなんかの精神分析批判は、科学的に証明されていないというより、そもそも反証が出来ない、科学的方法に則っていない、という点だった事は指摘しておきたい。

 精神分析批判者の精神分析より、精神分析に執着する人の精神分析の方が興味がある。

 で、いちおう自由エネルギー原理という現代神経科学理論との親和性も触れられていたが、どうなのだろう。これについてはまた調べたい。そもそも自由エネルギー原理もかなり大胆な理論でまだちゃんとは受け入れられていないだろうが。

その他

 オブジェクト指向存在論については前に書いた。

cut-elimination.hatenablog.com

オブジェクト指向というプログラミングのような名前を付けている割にはプログラミングのオブジェクト指向と似ていない。本書ではオブジェクトとオブジェクトはアクセスせずに存在しているとあったが、オブジェクト指向ではオブジェクト同士のアクセスが重要である。

 解らない言葉が幾つかあった。有限性は解ったが、それが無限性という言葉と対になっている感じがしなかった。一応ロジックをやっていると無限とか有限とかは気になるので。

 あと複数性というのもよく解らなかった。

 全体に出てくるが「クリエイティブ」という言葉の使い方も気になった。意味が鮮明でない。

 レヴィナスは面白そうだと思った。私は英米の人が書いた現象学の本はちょくちょく読んでいるが、あまりレヴィナスが出てこない。英米では評価されていないのかもしれない。でも「存在するとは別の仕方で」って面白い。

 最後に、難しい思想書の読み方の解説があった。なんかこれを見る限りでは深く研究するのでなければ一次文献を読む必要はないように思えた。ただデリダの(思想内容の凄さはいまいち判らなかったが)本の書き方の面白さは伝わった。私には「大思想家の本を読んで思想を理解したい」という欲望がないのだが(ジラール先生は読んでるけどちょっと違う)、デリダを理解したくなる気持ちはちょっと分った。それが大きな収穫だった。

 あと当然ソーカル事件は触れられていなかった。