曇りなき眼で見定めブログ

学生です。勉強したことを書いていく所存です。リンクもコメントも自由です! お手柔らかに。。。更新のお知らせはTwitter@cut_eliminationで

『フィルカル』のアイドル哲学を読む その1 青田麻未「アイドルとハロプロ」

 またフィルカルだ!

 訳あって『フィルカル』に載っている青田麻未先生の「アイドルとハロプロ」という論文を読んだ。青田先生はかなりのハロプロオタクらしく他にも工藤遥論とかも書いている。私はアイドルもハロプロもそんなに知らないがハロプロオタクの友人からよく話を聴いていてなかなか面白いと思っている。

 で、この「アイドルとハロプロ」という論文なのだが、非常に面白い。というかなんか随所に青田先生の愛というかオタク特有の「語りたい欲」みたいなのが溢れていて微笑ましい。前に読んだ稲岡大志先生の堀江由衣論堀江由衣愛が暴走気味だったが、青田先生は微笑ましい範囲内に収まっている。

 ケンダル・ウォルトン大先生の「芸術のカテゴリー」という有名な論文があり*1、これで述べられているようなカテゴリーとして「アイドル」を定義するのが難しい、というのが青田先生の論点である。何故ならアイドルは「アイドルらしからぬ事をあえてする」という逸脱的なパフォーマンスやプロモーションをする事が多いからである。それによって差別化を狙う。アイドルはパフォーマンスより過程を重視するといった一応の特徴付けは出来るものの、ハロプロアイドルの場合はちゃんと歌やダンスといったパフォーマンスのスキルが高い事がアイドルらしからぬ特徴となっている。これはアイドルが少なかった時期にグループができたことやファンがそれを求めていることなんかも関わっているらしい。しかしつんく♂さんの方針やファンの意見も時代とともに変ってきているとか。私見ではそういうカテゴリー越境的なところもアイドルというカテゴリーの特徴になるか、或いはそれがハロプロに特有のものならば「ハロプロ」というカテゴリーがあるかもしれないと思う。

 という青田先生の議論はなかなか面白い。しかしそれに対して多すぎるんじゃないかというくらいにハロプロの活動やインタビューの紹介が書かれており、それも勉強になる。

 以下、引用してコメントしていく。

 ハロプロが同業者からも特別視されているという文脈で。

たとえばAKB48柏木由紀佐藤すみれが娘。8期オーディションでそれぞれ3次審査、最終審査まで残っていたことは有名な逸話であるし、またHKT48指原莉乃もかねてからのハロプロファンで現在でも娘。コンサートに参戦しては自身のtwitterで感想を記している。(36ページ)

「有名な逸話であるし」って知らんわ(笑)と思ってしまった。あと「娘。」という略し方やコンサートに「参戦」という書き方もオタクっぽくて良い。

 つんく♂さんのプロデュース方針が変ったのと同じような変化がハロプロメンバーの発言にも現れているという話で。

2015年に発売された59thシングルのプロモーションの一環としてYouTubeにアップロードされた「#モーニング娘。'15の課題」という一連の動画では、当時のメンバー13人がそれぞれ自分の課題を語っている。この13人分の動画のなかで、「アイドル」という語を持ち出して自らの、あるいはグループの課題を語るメンバーは飯窪春菜(10期メンバー、2011年より在籍)、小田さくら(11期メンバー、2012年より在籍)の2人である。(43ページ)

よく見てるな〜と感心してしまった。稲岡先生もアニメのDVDのオーディオコメンタリーでの堀江由衣先生の発言を引用していて驚いたが、この青田先生もなかなか凄いところから持ってきている。

 で、その小田さくらさんは、女性ファンが増えてきた事を受けて、女性に憧れられるのを目指しているというような事を語ったとか。それに対して。

これは通常、異性のファンから性的な魅力を伴ってみられると想定されがちな「アイドル」というカテゴリーとは、少しずれている。(44ページ)

確かにこう想定されているイメージはあるが、本当の所はどうなのだろうと私は疑っている。実際アイドルというカテゴリーのこうした特徴づけは青田先生はここまででしていなかった。ただハロプロの女性ファンは増えてきているらしいので、女性ファンに憧れられるというのは最近の傾向なのだろうか。『アイカツ』とか女児向けのアイドルアニメは同性からの憧れを強調していた。もっと昔はどうなのだろう。山口百恵とか女性ファンが多そうである。『ちびまる子ちゃん』のまる子がそうだった。

 安西信一という人がももいろクローバーZについて「フラガール的想像力」と論じているのに対して、青田先生はハロプロを「女子校的想像力」と論じている。

女の子だけがかわるがわる卒業・加入し、その憧れをハロプロという閉じられた範囲に閉じ込めている様は、さながらひとつの女子校のような雰囲気を漂わせる。そしてファンはこの憧れで結ばれた関係を楽しみ、外から眺める。ボーイッシュな娘。メンバーである工藤遥(10期メンバー、2011年より在籍)に多数のハロプロメンバーが「恋する」さまを茶化しているさまなどは、すこし男性的な要素を合わせ持つ女子が女子校において高い人気を獲得するのを眺めている心持に近い。ほかにもファンたちは、メンバー内で異様に仲の良い者同士を「カップリング」して楽しむ。このように伝統を軸としつつも、憧れや百合的な関係性を(半ば勝手に構築しつつ)享受するファンたちは、ひとつの女子校の人間関係を覗き見るような想像力をはたらかせている。(49ページ)

あるある。これはハロプロだけでなく坂道とか他のアイドルグループでもあるんじゃなかろうか。きららアニメでもある。しかしハロプロではこういうのだけでなくパフォーマンスも重要だ、というのが青田先生の論である。そしてもしやと思って調べてみたら青田先生も女子校出身だった*2。私は男子校出身なので想像もつかない世界である*3

 ハロプロの新しいメンバーにはスキルを求めるか否かという議論がインターネット掲示板で起っていたというのが書かれている。この出典として5ちゃんねるか何かのまとめ(アフィ)ブログのURLが書かれているがこれは倫理的に良いのか!? と思ってしまった。5ちゃんねるからの転載なら元の5ちゃんねるの過去ログを探すべきなんじゃないかと。調べてみたらそのまとめブログのリンクは切れていた。

 結語から

強調しなければならないのは、本稿は、「ハロプロは歌・ダンスという技術の面でほかのアイドルよりも優れている」という主張をしていないということである。むしろ、このスキル特化の傾向こそ、「アイドル」としてハロプロが現在ブレイクしていない遠因であると考えることさえも可能である。(52ページ)

ちょっと誤読しそうになったが、「ハロプロは技術が優れているからほかのアイドルよりも優れている」と主張していないというだけで、「ハロプロは技術が優れている」とは主張している事に注意である。青田先生が「ハロプロにもっと売れて欲しい」と暗に思っているような感じがある。なんか熱意に感動した。

 

*1:森功次先生が有料noteで翻訳を公開してるからみんな買おう!

note.com

*2:青田先生のresearchmap参照。

*3:女の子っぽい子が人気みたいなのはうっすらとあったが。