原口正宏先生という偉いアニメ研究家の方がまとめた次のページを見てほしい。
1963年から2012年までの50年間に放送されたテレビアニメのリストである。これを見るに、いわゆるアニメオタクというのが出始めた70年代後半から80年代頃には、すべてのアニメを見ることもそれほど難しくなかったように思える。タイトル数の少なさは、昔のほうが話数の長い作品が多いという事情もあるので、すべてを全話見るのは難しいかもしれないが、チェックするくらいなら全作品できそうである。
ところが2000年代には、深夜放送の開始や多チャンネル化により放送数が激増した。リストにない2013年以降は配信アニメも出てきている。それでもオタクたちは必死になってアニメを追いかけようとしている。私はこのような必死なアニメ鑑賞はあまり健康で文化的でないと思っている。
一方で、オタク史の初期の頃は録画やソフトの技術が普及しておらず、その点では現代の我々は恵まれている。録画は簡単だし円盤は買えるし、配信で見ることもできる。まあそのせいで作品数過多の傾向が止まらないのかもしれないが。
本記事では、作品数過多&配信でいくらでも見られるこの現状でいかにしてアニメを見るべきか、いくつかの提案を行うものである。必死になってアニメを見るのではなく、もっと楽しく見よう、これが私の主張の核にある。これを念頭に置いていただいて。
- 大原則:流行っているアニメよりおもしろいアニメを見よう
- 生れる前の名作を見よう
- 好きな監督を見つけよう
- 考察よりも研究をしよう
- 声優やキャラクターに入れ込みすぎないようにしよう
- まとめ:おもしろいアニメはまだまだたくさんある!
大原則:流行っているアニメよりおもしろいアニメを見よう
↓このような声が最近よく聴かれる。
しかし、少し前にはアーニャだマキマだ言っていたのに、ちょっと前は有馬かな、今ではフリーレンフリーレンなので、サイクルが早すぎてついていけませんわ。消費が早すぎます。
— 東京藝術大学お嬢様部 (@Soldi79710444) 2023年11月13日
しかし、少し前にはアーニャだマキマだ言っていたのに、ちょっと前は有馬かな、今ではフリーレンフリーレンなので、サイクルが早すぎてついていけませんわ。消費が早すぎます。
— 東京藝術大学お嬢様部 (@Soldi79710444) 2023年11月13日
私は言いたい、ついていけなくなることを恐れるな、と。
流行っているものが見たくなるのは、みんなが話題にしているからという要因がある。特にSNS時代の今はこの傾向が顕著で、流行に乗っかりたい、ミームに乗っかりたいという欲求は強まっているように思える。それがだんだんと、流行についていけなくなることへの焦りに転ずる。
しかし、むしろ藝術や娯楽というのはそうした社会の圧から解放されるためにある。アニメは社会に参加するためのツールではない。そんなもんに惑わされないためにあるのである。事実、おもしろいアニメというのは一時の流行で終らず残っていくし、つまらないアニメは本当に消費されて終るだけである。だから流行りなんぞ気にしなくていい。
これは当り前のことだと思うのだが、流行っているものがおもしろいとは限らないし、おもしろいものが流行るとも限らない。そして人生にとって重要なのは、きっと流行っているだけのアニメではなくおもしろいアニメなのである。
また、流行ってるアニメを後から見たってべつにいいのである。
例えばだが、流行っていた『ぼっち・ざ・ろっく』というアニメは(流行っていたからでなく)おもしろそうだったので私は見たが、同時期に放送していてそれほど流行らなかった『Do It Yourself!』という作品のほうが私はおもしろかったと思う。『ぼっち』を語っていたりミームで遊んでいる人をネット上で見かけるたびに私は「わかってねぇな〜🥴」と思っている。流行りと違う感想を持つことを恐れないように!
生れる前の名作を見よう
おもしろいアニメを見つけるためには、相応の嗅覚が必要である。しかしこの嗅覚を身につけるのが難しい。私のおすすめの方法は、古典的な名作を見ることである。小説なんかもそうだが、古典というのは時代を超えて評価されてきた作品であるから、流行りを超えた普遍的なおもしろさを持っている。これがわかるとアニメ鑑賞力がアップする。
自分が生れる前の名作を気軽に見ることができるというのが、実はこの配信時代のいちばんの旨味なんじゃないかと思っている。例えばdアニメストアなんかはけっこう古いアニメもある。この記事を読んでいるあなた、試しに『アルプスの少女ハイジ』なんかを見てみるとよい(見たことあるかもしれないが)。『ハイジ』が放送されていたのは今から49年前の1974年である。私は同作は今でもおもしろいしむしろ今ではなかなか見られない稀有な作品だと思っている(ついでに言うとハイジの裏番組だった『宇宙戦艦ヤマト』は、私は流行っただけでいま見てもおもしろくないと思っている)。
流行りの作品には現代ならではのことが書かれていて共感しやすいかもしれない。しかし、ダイレクトに共感できないかもしれない作品をじっくり鑑賞して共感できるポイントを探すというのも悪くない体験だと思う。
どうやって「名作」とされるものを知るのかだが、冒頭に挙げたホームページを参考にするのもいいし、↓のようなアニメ史の本を読むのもよい。
好きな監督を見つけよう
最近のアニメはうっすらと監督の存在感がなくなってきていると思う。新海誠監督以降、天才・奇才が現れていない。これはマズイ。もっと監督に注目するアニメファンが増えるとよい。
これは緊密なメディアミックスが重視され尖った演出が許されなくなってきているからだと思う。アニメ視聴者も「原作と違う」とか言ってすぐ叩かないように。もっとアニメをじっくり見て、アニメならではのおもしろさを味わおうではないか。「アニメならではのおもしろさ」のなんたるかを知るには、やはりまずは名監督の古典を見るのがよい。そしてできたら好きな監督を見つけてその過去作も見る、ということをやってみるとよい。これによってアニメにおける監督の重要さがわかる。
最近は宣伝とかSNSでのバズりによって作品の成否が決まってしまう。そうではなく監督の腕とか個性で作品が注目されるようになってほしい。
私は監督だと前出の高畑勲監督とか『けいおん!』の山田尚子監督が好き。
考察よりも研究をしよう
SNSの「考察」文化というのも、悪くはないが行き過ぎると単なるバズり目的のゲームになってしまい、やはり快適なアニメ鑑賞を妨げる。考察とか言って肩肘張らず、素直に見ればよいと思う。
もし作品のことをもっと深く知りたくなったら、アニメ雑誌やネット記事で制作者や出演者のインタビューを探して読むとよい。それが正解とは限らないが、素人の考察よりもアニメを深く見るヒントになる。それと批評家の文章を読んだりラジオを聴くのもよい。考察でなく「研究」のレベルに高めるのだ!
おすすめのアニメ批評家は藤津亮太氏です。古典のガイドにもなる↓の本はおすすめ。
声優やキャラクターに入れ込みすぎないようにしよう
最近は00年代ほど声優オタクは熱狂しとらんかもしれないが、まあ一応。アイドル声優を応援するというのはアニメ鑑賞とはもはや別なので、アニメ鑑賞が好きならばあまり声優に入れ込み過ぎないように。
キャラクターを「推し」とかいうのも行き過ぎると危険なので、あくまで気楽にアニメを見ましょう。気楽に気楽に。
まとめ:おもしろいアニメはまだまだたくさんある!
まとめると、
- 流行りに流されず、真におもしろいアニメを見つけよう。
- そのためには、アニメ鑑賞眼を身につけよう。
- 素直に気楽に見よう。
こんなところである。
私はこんな感じの方針で毎日たくさんアニメを見ているけれど、本当に楽しくてしょうがない。そしてまだまだ見ていないおもしろいアニメはきっとたくさんあると確信している。追われることなく自分のペースで見れば、それが楽しみになってくる。なんと素晴しいことか!