曇りなき眼で見定めブログ

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将棋の独特な言い回し集 其の一

 将棋の中継やYouTubeのプレイ実況動画を見ていると、将棋界隈独特の言い回しがたくさんあることに気づく。それをちょっとずつ収集していくとおもしろいかな〜と思ったので書きます。

 私のいう「独特の言い回し」というのは「詰めろ」とか「頓死」みたいな語彙的なものではなく、もっと統語論や語用論に関わってくるような*1ものである。まあ例を見てちょんまげ。

 

「本譜」

 棋譜の解説をする際に、「こう指していればこうなった」という変化手順をいろいろと示した後で、実際に指した手順を見るということがある。そのとき「本譜ではこう指した」という言い方をする。本譜というのは「本来の棋譜」「実際の棋譜の手順」ということなのだが、「本譜では」と言わず、「では」を省略して単に「本譜、3三桂〜」みたいに言うことがある。「本譜」という名詞を副詞的に使うのである。しかも音韻的*2には「本譜ぅ」という感じで、やはり助詞*3のない名詞を副詞にする違和感を解消するような「ぅ」が入りがちである。

 

「単に!」

 相手の駒を取る手が見えていても、すぐに取らずに他の手を挟んでから取るということはよくある。解説者あるいは実況者がそのような手を読んでいたところで、対局者あるいは対戦相手が他の手を挟まずすぐに取ってきたとき、「単に!」と言う。「単に取る」、つまりいろいろ間に挟まずに単純に駒を取るという予想外の手に、感嘆する表現なのだが、それにしても何故か「取る」を省略して「単に!」と言うことが多いように思われる。似たような感じで「そこに打つのか!」というのを「そこに!」と言ったりする。

 

「勢い」

 これも似たような感じなのだが、「勢い金を取って〜」のように、ふつう「勢いに任せて〜」みたいに言いそうなところを単に「勢い」と言う。攻めの姿勢を取った以上は、損を顧みず攻めの手を指し続けるべきだ、というような状況でこの「勢い」が出る。

 

「手筋ですね」

 将棋にはいろいろなセオリーがあるが、マクロなものとミクロなものがある。盤面全体でどう指すかを第一手目から研究して集積したマクロなセオリーが「定跡」というやつである。対して、もっと局所的にというか部分的に駒がだいたいこういう配置のときはこう、みたいなミクロなセオリーが「手筋」というやつである。将棋は定跡と手筋を覚えるとだいたいの局面でどう指すかの方針が立てられるようになる。で、対局者が手筋の手を指したときに解説者が「この手は手筋ですね」と言う。私には「手筋の手ですね」とか「この手は手筋としてありますね」とか言うほうが自然に思われる。微妙な感じだけれどやはりこれも将棋的な言い回しではなかろうか。

 

「ひえ〜」

 これはいろいろと考察されているようなのだが、将棋において感嘆の声というのは何故か「ひえ〜」なのである。棋譜コメントなんかで「解説者の〇〇九段は「ひえ〜」と声を漏らした」と書かれていることが多いが、実際に中継映像のなかで解説の棋士がしっかりと「ひえ〜」と発音するのを見ることもけっこうある。「ひえ〜」なんてふつうは言わんでしょう。マンガのセリフならあるだろうけど。

 

 将棋みたいに長い伝統がある分野では独特な言い回しというのがたくさんあるのでしょう。そういうのを味わうのも将棋観戦のおもしろさかもしれませんな。また収集するのでたまったら書きます。

 

寄せの手筋200 (最強将棋レクチャーブックス)

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*1:これ言語学的には変な言い方だとは思いますが

*2:この「音韻」の使い方は合っているのでしょうか?

*3:「後置詞」と言ったほうがいいのでしたっけか。