久しぶりに雑誌『現代思想』を隅々まで読みまっせ(「隅々」は言い過ぎだけど)。「〈計算〉の世界」という興味深い特集があったので。私は線形論理という計算機科学の文脈から出現した論理を研究しているわけだけど、論理の哲学というと言語との関連から語られがちで、計算の哲学というのはあまりない。その出発点として読みたい。あと情報的・計算的な宇宙観(?)みたいなのに漠然とした興味がある。
一つ一つの論考の感想を書いていきます。
森田真生「計算から修復へ」
独立研究者・森田真生先生のインタビュー。「独立研究者」という肩書はなかなか良い。憧れる。私もこういう本を書きながら研究するという身分になりたい。
森田先生の本は調べもの中にパラパラと見た程度でがっつりとは読んだことがない。ちゃんと読んでみたいなあと思った。
インタビュー中に明示的には触れられないが、アンディ・クラーク先生とかアルヴァ・ノエ先生みたいな現代現象学・身体性認知科学・エナクティヴィズムの研究を意識して計算について考えている感じ。ぶっちゃけたいしたことは言っていないというか、自然観とか生命観がナイーヴな感じは受けるが、数学とか論理学とか計算機科学の思想的背景を良い感じのエピソードと結びつけて語るのが上手く、非専門家向けにはこうやって話すとよいのだなと勉強になった。
細谷曉夫「計算とはなんだろう?」
わたし的にも関心がある量子コンピュータの話題が登場。計算とは何かという話からチューリングマシンと量子コンピュータの違いまで扱っている。
チューリングマシンを知らない人が読んでわかるかな、とか、「チャーチ=チューリングテーゼ」という言葉の説明がなくないか、とか、気になる点もあったが、まあまあまあ。
私は今後ちゃんと量子コンピュータの勉強を始める所存で、意欲が高まりました。
渡辺治「計算の世界へ」
渡辺先生は東工大の先生で、東工大でのコンピュータ科学の授業の様子がちょっと語られている。どの学科もCSが必修らしい。いいね。YouTubeで講義を公開しているとあったのでちょっと見てみたが、なかなか良さそうだった。
で、本論は計算可能性と計算複雑度の入門記事であった。計算複雑性は私はあまり知らないがわかりやすかった。今後ちゃんと勉強します。
渡辺先生は「すべては計算だ」という「計算世界観」を主張している。しかし「すべて」といっても森羅万象とは思っていないらしい。本特集の後の方で出てくる丸山善宏先生は「森羅万象が計算である」という世界観を扱っていると思うので、比較が楽しみである。
今回のまとめ
最初の三つの記事はどれも易しめであった。このテーマをちょっと知っている私には良いウォームアップという感じ。