曇りなき眼で見定めブログ

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【成田悠輔-○-□-批判】広い意味での学者の倫理というか徳を考えよう

 経済学者の成田悠輔先生が叩かれている。方々でいろいろな表現で「高齢者は集団自決したほうがよい」「老害を殺せ」といった趣旨の事を言っていたので。学者としてどれ程優れているか門外漢の私には正確には判らないが、タレントとしての成田先生は私は嫌いである。なので叩かれていて少し嬉しい面もある。この「叩く」という行為の分析と倫理的な良し悪しについても考えている事があるのでまたいずれ。

 私は表現の自由は大切だと思っているので主張する事自体は悪いと思わない。つまり、間違った事を主張したり倫理的に悪い事を提案したとしてもそれ自体が悪いとは思わない。問題は主張の仕方である。学者としてその言い方はどうなんだ、と。

 哲学では科学技術倫理のような分野はあるが、もっと広く取った学者全般の倫理というか持つべき徳みたいな議論はそう言えば聴かない。あるんだろうけど。私は倫理学の素人なので、徒然なるままにこの問題について書く。とはいえ学問を志す以上は日頃から考えているような事ではある。

 まず成田先生は、過激な主張をしている割にそもそも主張の根拠がよく解らない。いや、論理展開は解るのだが、高齢者とか老害が社会にとってコストだとして、自殺すればそのコストが消えるように思えず、そこの議論は不足していよう。そんな事をしたら副作用が大きすぎないか、と思う。「他が全て変らないとしたら」みたいな前提は必要だろう。それと人間は基本的に社会の為に生きているのではなく生きる事が目的なので、社会の為に死ねとか言い出したら本末転倒感がある。そして集団自決とか切腹とか老害とか、語彙が妙に陳腐で、本気で言っているのかどうかもよく判らないのである。冗談ならば学者の肩書でコメンテーターとして言うべきではないような話である。本気で言っているならばもう少し中立な表現を使って根拠も慎重に出すべきである。過激な事は慎重に主張しなければ伝わらないものである。哲学だとピーター・シンガー先生とかデイヴィッド・ベネター先生とか、過激な主張を物凄く議論を尽くして提示している。成田先生は高齢者に自殺を促す事の是非など詳細に研究はしていない。ただいろんなメディアでヘラヘラしながら喋っているだけである。

 で、こうした事は学者がテレビとか大手メディアに出る事の難しさの証でもあると思う。専門家に意見を伺うみたいな出方はさておき、レギュラー・コメンテーターみたいになるとありとあらゆる問題でコメントを振られてしまう。それで自分の専門でない事はどう答えれば良いのだろう。私としては、学者たるもの自分の専門外の事にはなるべく沈黙するとか、あるいは自分の専門に引き付けて何か答えるとかするか、「学者の私にも分りません」みたいな事を言うか、が良いと思う。しかし、そんな人は面白くないからメディアに呼ばれなくなって、適当な事を言うタレントばかり起用されてしまうだろう。呼ばれるには不正確で過激な事を言わなければならない。これはダブルバインドである(最近この言葉を覚えた)。成田先生はその片方を取ってしまったのだろう。そういうダブルバインドを生んでいるメディアも悪い。

 しかし成田先生はちゃんと論文を書いている優秀な研究者のようである。論文の中身は解らない私にも客観的に見て優れた人なのだろうと言う事は分る。でもどうしてそんな人が論文の外では好き勝手言うのだろう。苦労して論文を書いたなら適当な事を言うのは卑怯だと思いそうなものだが。ここは解らない。

 成田先生は、論文を書くだけでは自分の素晴しいインテリジェンスが世の中に活きてこないと考えた可能性はある。これは確かにそうで、勿論アウトリーチというのは大事である。その射程を見誤ったのが今回の事件という事か。

 まあ学者としての徳なんて人間の名誉欲、自己顕示欲、承認欲求の前では無力なんでしょう。虚しい事であるよ。

 

 あ、私は反出生主義者なので、保守的で穏健な人間ではありませんよ!

 

 で、そもそもなんで急にこんな人が出てきたのだろう。なんかのコネだろうか。冒頭でタレントとしての成田先生は嫌いだと書いたが、別にユーモア・センスとかはないと思う。あの独特のメガネはスベっているし、スベってると指摘したら「こういうファッションであってボケてませんけど」と言い訳する余地を残している感じも気に食わない(言い過ぎ)。

 私は聴いていないのだけど「オールナイトニッポン0」を担当したらしく、その時のツイートがこれ。

「初カキコ…ども…」の彼みたいだ(「虐殺行為はNO」だが)。このツイートを見た感じでは成田先生は余り自分のイタさみたいなのを客観視できていないと思う。そういう人が過激な事を言ってメディアに出て学者としても上手くやっていって、とするのはちょっと無理があったのではないか(成功している人を知らないが)。

 しかし、中年なのにこういうツイートができてしまうという点で物凄くユニークで、メディアにとって貴重なキャラクターだと思う。というか過剰に持ち上げずもっとイジって差し上げればよかったのではないだろうか。

 

 成田先生を理解する為にもこの本を読まなければ。