曇りなき眼で見定めブログ

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【感想】『映画大好きポンポさん』なる国産総天然色長編漫画映画を観ました

 けっこうおもしろかった。

 相変らずまったく何も知らずに観にいった。YouTubeで予告がオススメで出てきて、おもしろそうだったので観にいった次第である。まあこういう単発の劇場アニメはとりあえず全部みておきたいね。原作はマンガらしいのだけど、まったく知らなかった。Pixiv発らしい。CLAPというスタジオも存じ上げなかった。監督の平尾隆之さんはufotable作品をよくやっていて知っている。 

 最近はこういう感じでフィクションの哲学を勉強しているので、その面で興味深い作品である。最も興味深い点は、作中作の映画「マイスター」がおもしろくなさそうなのにこの「映画大好きポンポさん」という作品はおもしろい、ということである。

 映画制作についての映画というのはよくある。有名なのはフェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』とか北野武監督の『監督・ばんざい!』とか。どちらも新しい映画の制作に行き詰まって苦悩する監督が出てくる。こうした作品のおもしろさは、それを描いたそれ自体も映画になっているという点である。作中の苦悩する監督と同じようにこの作品自体の監督も苦悩したのかなあ、と想像される。『8 1/2』というタイトルはフェリーニにとって共同監督も含めた9本目の映画であることにちなんでいるという。主演のマルチェロ・マストロヤンニはこの前に『甘い生活』というフェリーニ監督作品で主演していて、フェリーニの分身っぽさがちょっとある。『監督ばんざい!』に関してはたけし自身が主演している。『監督ばんざい!』は仮題が「Opus 19/31』という『8 1/2』を意識したものだったという。19というのは北野武のそれまでの作品と当作の作中作の本数を合せたものらしい。31は目標の本数らしい。

 蘊蓄が長くなったが、要するに「映画制作映画」の真骨頂は「この映画の制作も大変だったんだろうなあ」というメタフィクション的な想像を誘発する点にあると思う。そういう虚実の入り交じりを楽しむのである。しかるにこの『映画大好きポンポさん』はそうではない。これは映画というよりアニメなのである。アニメならではの演出のオンパレードなのだ。最近のアニメに多い*1、画風を切り替えてシンボルや幾何学図形や精神世界の感じを多用したプレゼンのような映像がよく出てくる。また、なんというのか忘れたが、マンガのコマ割りのように画面を分割したり、時間を大袈裟なフォントで表示したり、強引に時間を戻したり、独特な場面転換が多かったり。こうしたことはすべて、実写映画だとくどくなるが、アニメだと効果的なやつである。そういう演出が矢継ぎ早に展開されるのが楽しい作品である。そういうのの一環かと思われた冒頭の映像が後半でしっかり意味を持ってくるのもうまひ。

 てなわけなので、作中でシネフィルたちが映画論を語るのだが、その映画論に反することをじゃんじゃんやっているのがこの作品なのである。主人公(?)のジーンは『映画大好きポンポさん』のような作品は決して撮らないだろうと思う。それくらい非映画的で極アニメ的な作品である。私はシネフィルではなくアニメ至上主義者なので登場人物たちの情熱にまったく共感できず、作中作にもまったく惹かれない。けれどもそれを描いたアニメ作品としての情熱には心を動かされるものがある。そして実は作中作の活かし方としてそちらのほうに眼目があるっぽい。作中作の「マイスター」は指揮者の話で、監督のジーンは作中作の主人公の指揮者の音楽との向き合い方と自身の映画との向き合い方を重ねる。『映画大好きポンポさん』という作品がそういう話を描く以上、この制作者もアニメと真摯に向き合う必要がある。その作品の内在的な要請にはじゅうぶん応えている。そういえるほど「濃い」アニメであった。

 

 絵について書いておく。キャラクターデザインがすごく良いと思った。入場者特典で貰ったマンガ冊子を見てみると原作の絵はマンガらしいゆるい描線だったのだが、アニメでは(当たり前だけど)もっとプロダクト的に洗練されていてよい。というか原作ももともとアニメ用の企画だったらしい。これくらいシンプルでかわいいのがいちばん良い。

 あとナタリー役は声優とか役者じゃなさそうだと思ったら「ポケんち」に出てる子だった。舌足らずな感じが合ってるね。こういうキャスティングもうまい。

 クライマックス的なところで『アイシールド21』の陸みたいな奴と「攻殻機動隊」のパズみたいな奴のプレゼンの場面があるが、私は「夢を叶える」みたいな言葉が嫌いなのでちょっとアレだった。

 映画館に観にいくとき、時間的に厳しいかと思ったが上映時間が90分程度だったのでその日に観ることにした。私も映画は90分くらいがベストだと思う。『8 1/2』は長すぎである。

 

 

 

 映画制作についてのアニメ映画であり、死ぬほど複雑な物語構造を持っているのが『千年女優』。

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 キャラクターが作中作と自身を重ね合せることを効果的に使った作品といえば『ガラスの仮面』。