曇りなき眼で見定めブログ

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「哲学に興味があるけど何を勉強したらいいのかわからない」という人におすすめな本その1『現代存在論講義』

 勉強というのは難しいもので、指導要領とかから離れた大学生や指導要領を超えて勉強したい若人や学校を出た社会人なんかは、意欲があってもそもそも何をやったらいいのかわからなかったりする。しかもそれが哲学となるとなおさらである。さらにヤバイことに、数学なんかだとだいたい大学レベルでも「これを勉強しておけ」というのが決まっているのだが、哲学ではそうではない。大学の哲学の講義は、勤めている教員の専門分野によってかなり左右されてしまう。とういかそもそも哲学という学問がなんかそうしてボンヤリしてしまっている。そんななかで「まっとうな哲学教養」を身につける道はないものか。私自身もけっこう回り道してきてしまった。

 で、哲学入門者のまっとうな勉強法は、やはり初学者向けに書かれた哲学の本を読むことである。しかし冒頭の理由で初学者はそもそもどんな本を読めばよいのかわからないという問題がある。なのでいろいろ紹介していきたいのである。ついでに私には、数学における微分積分線形代数集合論のような感じで、哲学におけるスタンダードを作りたいという野望もあって、それに向けたささやかな第一歩でもある。

 なお、私が想定しているのは「難しめの本を時間をかけて読み解く力のある人」という感じである。より具体的には、そこそこ良い大学の学生とか、頭の切れる高校生とか、教養のある大人とか、そういう感じである。

 

 いまのところ入門書として第一にオススメなのが倉田剛『現代存在論講義』Ⅰ・Ⅱ(新曜社)である。哲学書を読むときのポイントなのだが、新書を読むよりも勁草書房とか新曜社の本を読んだほうがよい。これらの出版社の本は堅くて難しいものが多いのだが、それぐらいじゃないと哲学を勉強した気になれないのではないかと思う。『現代存在論講義』は新曜社の本で全2巻である。けっこう難しいし分量もあるが、ユーモアもあるし読みやすい部類である。装丁もなかなかオシャレでそこもポイントが高い。

 この本がオススメな理由はいくつかある。まず、存在論という哲学の伝統的なテーマを扱っているというのがある。「存在論」ってなんとなく哲学っぽい響きではなかろうか。存在論とは「何が存在するのか」「〇〇は存在するのか」ということを探究する分野である。しかもこの本が良いのは、その現代的な発展版で分析存在論とか、もっと広く分析形而上学と呼ばれる分野を紹介しているということである。意外かもしれないが、哲学は進歩する。昔の人が書いた本を読むだけではないのである*1。私はそういう認識が広まってほしいと思っている。本書では「普遍論争」という中世に由来する論争の現代版が詳しく紹介されている。また、本書では記号論理学を少し用いて議論している。こういう議論の手法も広まってほしいし、論理学を哲学のスタンダードに組み込みたいなあ*2

 また、優れた哲学入門書は、様々な学説を紹介するとともにそれらのうちどれを選ぶべきかという基準も提示していることが多い。本書はそうした「理論選択の基準」を詳しく論じている。初学者にとってよい手引きとなるであろう。

 そしてこの本の最大の魅力は、なんか凄そうでカッコよさげな理論や説がいろいろ出てくるという点である。普遍論争なんてすでに凄そうだが、虚構主義とかトロープとか四次元主義とか可能世界とかなんかワクワクしてこないだろうか。虚構的対象、すなわちフィクションのキャラクターを存在論的に分析するという話題も、多くの人にとって関心のあるところではないかと思う。「シャーロック・ホームズは存在するか」というようなことが、真面目な哲学の問題として取り上げられている。また、有名な「テセウスの船」の思考実験も登場する。

 ここまでで難しそうな本だと感じたかもしれない。事実この本はけっこう難しい。しかしそれは数学や英語が難しいというのと同じような意味での「難しい」である。つまり、きちんと勉強すれば難しいところも理解できるようになっていく。哲学も他の学問と同じようにそういう性格があるということをこの本で味わっていただけたらな〜と思う次第。

 ところで、実は私自身はこの本で述べられていることにまあまあ批判的だったりする*3。しかしそれはこの本がダメな本だというわけではない。賛同できる部分とそうでない部分が明確なのが良い哲学書の条件である。議論がボロボロだったら批判する気も起らないが、良い本というのはわざわざ批判してやろうという気を起こさせるものである。

 

現代存在論講義I—ファンダメンタルズ

現代存在論講義I—ファンダメンタルズ

  • 作者:倉田剛
  • 発売日: 2017/04/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

現代存在論講義II 物質的対象・種・虚構

現代存在論講義II 物質的対象・種・虚構

  • 作者:倉田 剛
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

*1:といって自然科学のように直線的に進歩するのではない。TGCをやったことがある人はわかると思うが、過去のカードが急に価値が上がることがある。そんな感じで昔の人が書いた本が急に脚光を浴びることもある。それがTGCと哲学のおもしろさである。存在論というとハイデガーとかサルトルが有名かもしれないが、本書では彼らはまったく取り上げられない。しかしアリストテレスはかなりしっかりと参照される。

*2:しかしだからといってこの本を読むのに論理学の予備知識が特別に必要なわけではない。論理学の教科書を読んで勉強しないとアカンのかな…などという心配には及ばない。大きめの本屋の哲学書コーナー(あるいは数学・情報科学のコーナー)で論理学の教科書を見ていただくとわかるのだけれど(例えば戸田山和久先生の『論理学をつくる』とか)、けっこうな分量が述語論理のモデルとか自然演繹とかいったものに充てられている。こういうのは言うなれば「論理学オブ論理学」であって、論理学そのものに興味がある人や分析哲学ガチ勢を目指す人が学ぶべきことであるといえる。しかし分析哲学の入門レベルでは文を記号や式に置き換えるという操作ができれば十分で、本書の第一講義でその方法はちゃんと解説されているし読んでいくうちに慣れると思う。だいたい本書が読める程度の論理学が習得できれば、分析哲学のおもしろさをかなりしっかりと味わえるようになるはずだ! で、もちろんこれで論理学に興味が湧いたら、先に言及した述語論理のモデルとか自然演繹とかも勉強したらよいでしょう。もちろん、すでに論理学の初歩を勉強したことがある人にとっては、それを哲学的分析に応用する楽しさが味わえる。

*3:倉田剛『現代存在論講義』読書メモ - 曇りなき眼で見定めブログを参照