数ヶ月前に『劇場版 呪術廻戦0』を観た。あんまりおもしろくはなかったけどめちゃくちゃつまらないというわけではなかった。取敢ず観て良かったかなと。
観て気付いたのだが、私の大好きな『羅小黒戦記』の劇場版と話がよく似ている。私は構造分析というのをやってみたくなった。
蓮實重彦大先生の『小説から遠く離れて』では、当時流行していたSF風の純文学作品をいくつか取り上げて、それらが実は同じ物語だということを論じている*1。蓮實先生は暗に物語なんて大体似てくるもんだから大したことないと言いたかったんじゃなかろうかと思う。同じ物語というのは、何点かのポイントを共有していて全体として同一の構造を持っているということである。構造分析というのはウラジーミル・プロップが神話や民話に対して行ったのが有名だが、現代小説でもなんだかんだできてしまうというのは衝撃だ。
これの漫画・アニメ版の構築を試みるよ。
呪術廻戦と羅小黒戦記
『羅小黒戦記』と『呪術廻戦0』は以下のような構造を共有している。
- 主人公は強大な力を秘めている。
- その力を利用しようとする敵がいる。
- 主人公は力の活かし方を教えてくれる師匠と出会う。
- 敵はマジョリティに虐げられた過去がある。
- 師匠と敵は対立する組織に属する
- 力を解放した主人公と敵が対決する。
- 最終的に力は封印される。
7つもあれば物語の構造として十分だろう。これらを二つの作品に沿って順に見ていこう。
1. 主人公は強大な力を秘めている
乙骨優太は里香の呪いという特級の力を持っている。本編を含めても最強クラスらしい。
一方シャオヘイは領界という最強の能力を持っている。
2. その力を利用しようとする敵がいる
優太の力を奪おうとする夏油傑とシャオヘイの力を奪おうとするフーシーである。
3. 主人公は力の活かし方を教えてくれる師匠と出会う
優太は五条悟と出会う。シャオヘイはムゲンと出会う。
4. 敵はマジョリティに虐げられた過去がある
夏油にはなんかそういう過去があるっぽい。フーシーは明らかである。
5. 師匠と敵は対立する組織に属する
なんかこれはそらそうだという感じもする。
五条は呪術高専で夏油はなんか宗教団体みたいなやつ。ムゲンは館でフーシーはゲリラみたいなことをやっている。
6. 力を解放した主人公と敵が対決する
どちらの作品もクライマックスでそうなる。
7. 最終的に力は封印される
優太もシャオヘイも最強の力を失ってしまう。
もっと拡大したい
いかがだろうか。おんなじ話である。
もっといろいろな作品に適用できるといいのだが、これらはどちらも映画なので長編マンガなんかは上手く当てはまらない。より一般性の高い構造を考えてみた。それがこちら。
- 主人公は人外の力と正義の心を持つ。
- 主人公は人間と人外との境界に位置している。
- 主人公は命がけで達成すべき目的を持っている。
- 人外の者は強大な力を持つ代りに致命的な弱点もある(あんまり「構造」っぽくないかもしれないが)。
- 敵にも味方にも悲しい過去があって戦いが正当化される。
- 主人公の父に主人公の力の秘密が隠されている。
- 主人公と最後の敵は表と裏のような存在である。
- 主人公は大きな喪失を経験することで精神的な成長を遂げる。
前二作に当てはまるだろうか。命がけで達成すべき目的というのは明確ではないがまあ命がけで戦っている以上その理由はあるだろう。主人公の父はどちらも出てこないからダメである(後述のようにこれは日本のマンガアニメではありがちと思ったが、けっこう厳しい条件かも)。7はこの二作に関しては主人公よりも師匠の方が敵と対を成しているような。あとは大体当てはまっていると思う。
では他の作品ではどうか。
1〜8を考えるにあたって強く意識したのがキメヤイである。
ただし、人外っぽい力を具えて境界に位置するのは主人公の炭治郎よりも妹の禰豆子であるという点が微妙か。
あとは勿論当てはまっている。
実は近年のバトルものの基礎になっていると私が睨んでいるのが『寄生獣』である。
ジャンプ作品の傾向と違うのは、3がないことかと思う。「夢」とか物語の最中目標がなく、主人公の新一はひたすら戦いに巻き込まれていく。
4は人間を食べたり寄生しないと生きられないという点を想定している。
5は微妙で6はないなあ。
人外の力を得て戦うという設定は寄生獣から盛んになったように思うが、古くは「ウルトラマン」や「仮面ライダー」シリーズもそうである。あんまり当てはまる項目はないが。
ただし私の知る範囲では『仮面ライダークウガ』と『仮面ライダー555』はけっこう当てはまる感じがする。クウガは5がないのが特徴であろう。どちらも6はない。
寄生獣とともに現代バトルマンガの基礎と思われるのが『うしおととら』である。
4はなかった気がする。6があるのがポイント。
キメヤイに多大な影響を与えている作品だと私は睨んでいる。
私はまだ途中までしか読んでいないのでよく分らないのだが、4と5は微妙か。8はどうなのだろう。
ナルト
尾獣を考慮するとめちゃくちゃ当てはまる。4が微妙なくらいか。
ナルトというのは長い割に物語の構造はシンプルなのである。
最後まで読んでいないので最後の敵がわからない。ごめんなさい。
物語全体としての3はないかもしれないが局所的にはある。
4はなかったか。
これも私は途中までしか読んでいないので最後の敵がどうなのか知らない。すみません。
けれどもそれ以外は当てはまっている。
進撃は人間と人外のバトルという構図が入れ替わっていくのが物語上の工夫だと思うのだが、もう少し抽象化するとそれは大した工夫ではないように思えてくるのである。
4と7が微妙か。6はない。
錬金術が人外の力と言えるかどうかが微妙である。
ホムンクルスを人外の者と考えると、アニメ第一シリーズでは致命的な弱点があった。
7が微妙か。
ワンピース
悪魔の実の能力者を人外と捉えるとけっこう当てはまる。
まだ完結していないので最後の敵が誰なのか分らないのが残念である。今後に期待。
ところでワンピースは長い作品なので、内部にもっとワンパターンな特有の構造を持っている。
- ある島や国に来る。
- そこはかつて優しい統治者が治めていた。
- しかし今では悪しき海賊に支配されている。
- ルフィがそいつをぶっとばす。
- 優しい統治者もしくはその後継者が地位を回復し、再び平和が戻る。
これがびっくりするくらい当てはまる。アラバスタも空島も魚人島もドレスローザもワノ国も、もっと小さいエピソードにもこの構造があったりする。
まとめ
本記事は新しい情報が入るたびに随時更新していく予定。
ちょっとしか見たことないのだが『スターウォーズ』も当てはまりそう。